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新卒研修にはソクラテス式問答法が効く

勤務する企業に新卒が入社し、担当領域の新卒エンジニア研修をやりました。
その際に意識したことは、受講者自ら解法を導き出せるようにアシストに徹することでした。

未知の領域への挑戦

具体的に担当した領域は、「コンテナとデプロイ」という技術領域でした。
当たり前ですが、今までまったく馴染みのない方のほうが圧倒的多数でした。
なので、受講者たちにとっては、全く未知の領域へのアタックとなったわけです。
今後エンジニアとしてキャリアを積むにあたり、未知の領域に対して、
最適とは言わずとも、独力でリーゾナブルなアプローチを導き出す必要があることは多くあると思います。
その訓練を積めるように、小〜中規模な課題ベースの研修を組みました。
研修内容についてはどこかで別のポストを出すかもしれませんし、出さないかもしれないのですが、ここでは割愛します。

とにかく、受講者には完全に未知の領域に挑戦してもらったのです。

「なんもわからん」状態から進むには

複数の知識を組み合わせる応用系の課題になると、「何がわからないのかもわからない」という状態に陥る受講生が多かったです。
そしたら、講師である僕に、「何もわからないです。どうしたらいいですか?」という質問が投げかけられます。
質問ができること自体素晴らしいことですし、自分の位置を正確に把握できている点では評価できる質問です。
そこで講師が答えを教えてしまってはなんにもなりません。
受講者の中に、「わからないことは人に聞けば解決できる」というマインドを植え付けてしまいます。
とにかく、自分で一歩を踏みだせるようにアシストに徹する必要があります。

ソクラテス式問答法を試す

そこで思い出したのは、ソクラテス式問答法でした。
一番しっくりくる「相互問答法」というものを解説した記事を見つけたので貼っておきます。

https://ikiru-imi.net/?p=50

本来のソクラテス式問答法は、とある命題に対して仮説を排除しながら議論を深めていく論法のようですが、
対象者が命題について理解していないという点で、研修のメンタリングに応用が可能だと思いました。

やり方は、「これは○○だ」と答えを直接伝えるのではなく、
「何をやろうとしているのか?」という風にとにかく問い続けるようにするだけです。

会話のスタート

「何がわからないのかもわからない」状態に陥っている受講生は、今自分が何を実現しようとしているのかが言語化できていないことが多いです。
なので、まず、「実現しようとするゴールは何か?」と問いかけます。

自分なりの答えにたどり着くまで問いを続ける

例えば、docker-compose を利用して wordpress を立てるという課題をやるという仮定で話を進めてみます。

A: 受講者, B: 講師

  • A「何もわからない」
  • B「目指すゴールはなんですか?」
  • A「wordpress を docker-compose で立てたい」
  • B「それぞれを達成するために必要なものはなんですか?」
  • A「docker-compose で立てるためには docker-compose.yaml が必要だけど、wordpress はわからない」
  • B「wordpress は何をするためのツールですか?」
  • A「ブログを書くためのツール」
  • B「ブログには何が必要ですか?」
  • A「記事を書いたり、保存したりする機能」
  • B「記事を保存するためには何が必要ですか?」
  • A「DB が必要だ!docker-compose で wordpress と DB を立てれば良いのかな」
  • B「それだけで足りるかどうかはわからないですね。どうやったら分かりますか?」
  • A「調べてみる…」
  • B「そうですね。調べると分かりそうですね。どうやって調べますか?」
  • A「グーグルで検索してみる」
  • B「どういうワードを入れますか?」
  • A「ワードプレス 構築 などですかね?」
  • B「検索してみましょう!」 おしまい

これで、受講者は、何もわからないという状態から以下の状態に変化することができました。

  • wordpress を立てるために docker-compose.yaml を書く必要がある
  • wordpress には DB が必要である
  • 「ワードプレス 構築」で検索すると何かが分かるかもしれない

この各状態に対して、更に深くアプローチしていけば、自力で答えにたどり着けそうですね。

答えは最適解でなくても構わない

上記の場合、受講者の次の行動は、「ワードプレス 構築」で検索するというアクションに進みます。
しかし、この検索ワードは最適かと聞かれて、イエスと答える人は少ないでしょう。
この場合の最適解は、「wordpress の公式チュートリアルを眺める」という行いでしょう。
ただ、個人的な意見としては、必ずしもそこにたどり着く必要は無いと思っています。
自分でたどり着いた答えとその結果が本当の血肉になると思っているためです。

フォローを入れるなら

強いてフォローを入れるのであれば、以下のフォローを入れると良いのかなと思います。

  • B「調べてみました!wordpress には mysql が必要でした」
  • A「答えが見つかってよかったですね!どういうサイトを参考にしましたか?」
  • B「初心者向けのテック系ブログに書いてありました」
  • A「なるほど。他の記事は参考にしてみましたか?」
  • B「いえ、見ていません」
  • A「テック系ブログは正しい内容ですか?」
  • B「正しいかどうかは僕には判断できないです」
  • A「判断するためにはどうしますか?」
  • B「他の記事も見てみるとか…」
  • A「良いと思います!一番正しい情報は公式サイトなので、公式サイトを見てみましょう」 おしまい

この場合、「1つの記事が必ず正しいとは限らない」という点を受講者自ら導き出せました。
ただ、どんなサイトを参照すればいいかは、たどり着くことはできない可能性があるため、1つフォローを追加しました。
これで、受講者は、「情報を精査するために公式サイトを確認する」というアクションにたどり着くことができました。

大切なのは、公式サイトを確認する必要がある動機を自分で導き出すことです。
そうでなければ、例えば「答えを知るために公式サイトを見る」という動機付けの場合、
難解な英語で書かれている公式サイトよりも、更新されていない日本語の記事を参考にすることのほうが低コストで目標を達成できます。
しかし、「正しい情報を得るために公式サイトを見る」という動機であれば、
唯一正しさが保証されている公式サイトをがんばって参照するモチベーションになります。
なので、最後の最後に少しフォローを入れる程度にとどめておくと良いと思います。

実践してみて

この方法を実践してみて感じたことは、とにかく難しいな。。。ということでした。
すぐに答えを教えてしまいそうになったり、論理が繋がらない返しをしてしまいそうになります。
なので、よく考えて返答する必要があるため、かなり体力を使います。
しかし、受講者たちは自分の力でゴールまでたどり着くことができ、達成感を覚えている様子でした。よかった。

まとめ

ソクラテス式問答法をベースにメンタリングを実施したという内容でした。
メンターのほうにも、何度も対話をし続けるスキルと胆力と覚悟が要求される方法だと感じました。
誰かの役に立ったら幸いです。